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人蔘湯

湊三次郎率いるゆとなみ社が豊橋市の銭湯・人蔘湯を再生、4月末にリニューアルオープン目指す

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ゆとなみ社が豊橋市の銭湯・人蔘湯を継業
4月末にリニューアルオープン

 


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 豊橋市で2020(令和2)年、70年の歴史に幕を降ろし、突然閉店した「人蔘湯」が4月末に復活する。手がけるのは、銭湯活動家の湊三次郎さん率いる「ゆとなみ社」(京都府京都市)。世の中が大きく変わろうとしているからこそ、知らない人とのコミュニケーションの場、暮らしを楽しむツールとしての魅力が再確認され、銭湯でしか味わえない高揚感に心躍らせる人も少なくない。リニューアルオープンに向けて改修が進む人蔘湯に足を運べば、まだ知らない地元の物語があった。

左からゆとなみ社代表の湊さん、女将の藤井さん、新店長の大武さん=愛知県豊橋市神明町で

 開放的な天井高、高めの位置にあるガラスから柔らかい日差しが降り注ぎ、浴室を照らす。男湯と女湯をのぞむ正面の壁にモザイクタイルで描かれているのは、富士山ではなく堂々たるヨーロッパの山々。「絵葉書を見せて作ってもらったみたいだけど、擦るとポロポロ取れてきちゃうの」と人蔘湯の3代目女将・藤井寿美子さん(74)は笑う。


 人蔘湯の創業年は定かではないが、1950(昭和25)年ごろという。くすり湯に高麗人参を入れていたことがその名の由来のようで、愛らしさ漂うその名前を表に飾る白い建物は以前のまま残る。

 

男湯にはドライサウナ、女湯にはととのいスペースを新設

 現在、改修工事も真っ只中。重ねてきた歴史を感じる浴槽の細かな水色のタイルは、できる限り残そうと丁寧に修復する。ジェットバス、電気風呂、くすり湯、深風呂など浴槽の種類が豊富だった人蔘湯。男湯にはスチームサウナと新たにもう一つドライサウナを増やし、女湯には浴室内で休憩できる「ととのいスペース」を設ける計画だ。さらに、脱衣所が外から見えないように壁を作り、男女共用のロビーとフロント式の番台も新設する。

 地元住民の憩いの場としても機能してきた銭湯だが、ライフスタイルの変化により、近所の銭湯へ足を運ぶという文化は薄れてきた。次々と姿を消す流れは豊橋も同じで、昭和40年代には20軒以上あった銭湯も、人蔘湯と残り1軒まで数を減らした。

 

突然のボイラーの故障、そして廃業へ

 時代の大きな波にさらわれそうになりながらも、変わらずここにあり続けてきた人蔘湯の閉店はまさに突然だった。2020年8月1日、突然ボイラーが故障。その日の営業を途中でやめて、以来2カ月間の休業に入った。その間、藤井さんはボイラーを扱う業者を渡り歩いたが、結局修理できる業者は見つからず、あちこち老朽化していたこともあり、やむなく廃業を決めた。

 「常連さんにあいさつもできませんでした。会うことができた人はすごく寂しがってくれてね、ありがたかったですよ」。

 閉店の知らせを人づてに聞いたゆとなみ社はすぐさま人蔘湯へ足を運び、再開可能かどうかを調査した。これまで京都と滋賀で4軒の銭湯を継業し、東京でも1軒、コンサルティングを行っている。1号店の「サウナの梅湯」(京都市)はわずか4年で集客を4倍に増やし、若者から人気のスポットにした実績もある。

 蓄積してきたノウハウと実績に加えて藤井さんを安心させたのは、湊さんと新店長となる大武千明さんの人柄だ。「人蔘湯に来て話をする湊さんと大武さんの姿を見て、この人たちなら信用できると思いました。再建への熱意、情熱も伝わってきました。名前を残してくれたのも嬉しかったですね」。


 銭湯が減り続ける中でも、1日80~100人が利用していた人蔘湯を支えていたのは、藤井さんのフレンドリーさもあるだろう。ハネムーンの翌日から番台に座り、子ども3人を育てながら仕事をしてきた藤井さんは、リニューアル後もスタッフとして番台に座る予定だ。

 「これまで銭湯をやってこれて幸せだったと思います。身体的にも精神的にも、えらかった(辛かった)ですが、常連だった小さな子が成長して自分の子どもを連れてきてくれたり、お土産をくれたり。最近は若い子も来てくれるようになって楽しい毎日でした。復活することでお客さんも喜んでくれて本当に嬉しいですし、また会えるのが楽しみです」。

 湊さんも改修に汗を流す。数カ月間、豊橋に住み込んで気づいことがある。「郊外にあるスーパー銭湯はにぎわっている。温浴文化がないわけではないので、人蔘湯を知ってもらえれば選択肢の一つになるのでは」。


 人蔘湯のある周辺は豊橋らしさが凝縮されている。街のシンボル市電(路面電車)が走り、水路の上に建つビル群、通称水上ビルからもすぐ。まちなかの隅っこに人蔘湯があることで人の循環が生まれるかもしれない。

新店長は水上ビル育ち

 店長大武千明さん(35)は水上ビルで育ち、地元の豊橋技術科学大学大学院で建築を学んだ。その後、移り住んだ京都で銭湯通いを開始。ゆとなみ社のスタッフである一方で、写真を撮れない銭湯の中を図面化した著書「ひつじの京都銭湯図鑑」を出版する間取図クリエイターとしての顔を持つ。

 「豊橋を離れて10年になりますが、全く文化の違う京都にいたことで、外の視点や違うベクトルから地元が見られるようになり、いいところがたくさんあると気づけました。常連さんを大切にしながら、銭湯に行くことが当たり前ではない子どもたちにも来てもらえるような取り組みも行っていきたい。人蔘湯を通して子どもたちが豊橋の街に新しい視点が持てるような、そんな場所にしていきたいです」

 SNSは銭湯の持つポテンシャルに光を与える重要なツール。街の銭湯を知らない多くの人へ向けて、SNSを使った広報活動にも力を入れている。さらに、まちなかの商店と協力してお客さんを循環させる、この地域の中で過ごしてもらえるような仕掛けも考えている。

 きちんとその土地に根差し、地域のお年寄りや仕事人たちが1日の疲れを癒す場所としての役割を果たしつつ、新たな客層へもアプローチして経営を安定化させなければならない。新しい価値観を取り入れて生まれ変わる銭湯は、住人たちが「何もない」と自虐するこの街に新しい風を呼び込む。

人蔘湯では現在、改修費に充てるための資金をクラウドファンディングで募集中。
クラウドファンディングページはこちらから。

 

イベントレポはこちらから。

人蔘湯
住所:愛知県豊橋市神明町47
営業時間:午後2時〜24時
水曜日定休

 

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