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農業と食
ヤァサス

ミシュランやゴ・エ・ミヨ掲載店のシェフらと農家が皿の上に紡ぐ野菜の物語、ヤァサス

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 いま気になる料理人たちがいる。それぞれ東三河に店を構える料理人4人が新城市の無農薬野菜を使い、ジャンルレスなフルコースを共作している。農家を加えたグループ「ヤァサス」として活動する中で、互いに技術を持ち寄り、クリエイティビティと知性、確かな技術をさらに磨く。「食の楽しさを伝える」というシンプルで芯のある発信は、この地方に足を運ぶ人が増えることを願う。

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 和食、フレンチ、イタリアン、調理工程や盛り付けの方法、使う食材も異なるジャンルの料理人がそろい、一つの皿を完成させるには幾度となく試作が必要になる。「それぞれ自分なりに決まったやり方があるし、それを使った方が楽は楽なんです。でも、試作を何回も繰り返して、コミュニケーションを互いにたくさん取っていくと、自分だけで作るのとは全然違うものができる」と話すのは、豊橋市にあるフランス料理店「アトワタン」の山田康平さん。

 ヤァサスは、フルコースをゲストに振る舞うイベントを過去2回、季節を変えて行った。コース料理は前菜や肉料理など、それぞれで料理人がペアを組み、一つの皿を完成させる。例えばハモのお造りは、日本料理店「ゆるり」(完全紹介制)の西川裕介さんが骨切り、串打ち、炙ることでハモの旨味を巧みに引き出し、フレンチの山田さんがトマトとコンソメのジュレを添え、サラダのような前菜に仕上げた。 

 メンバーは、互いの技術と知恵を持ち寄ることで、相乗効果的に研さんを積む。「(西川)裕介さんは素材のネガティブな部分をどうやって美味しい方に持っていけるか、作業としてはすごく地味なことをしっかりやっている。基礎技術を大切にしている人なので、なぜあの香りが出るのか? あの食感にするにはどうすればいいのか? 仕上げは? とか、何でもかんでも全部聞いています。逆に裕介さんはフレンチのソースやスープの作り方、肉や魚の火入れの方法を聞いてくれています」と山田さんは話す。

 新しいことにも積極的で、西川さんは店で出さないデザートをコースに加えるため、和菓子屋を訪ねた。そこで学んだ砂糖の使い分けは自分の店でも生きる。「技術を向上させ、店でお客さんへお返しする」というシンプルな考えが皿の上に行き渡る。

 

 「ヤァサス」は、ギリシャ語で気軽なあいさつ「こんにちは」を意味する。メンバーは、山田さんと西川さんほか、ミシュランガイドに掲載される豊川市のイタリア料理店「GITA(ジータ)」の白井正幸さんと「ミシュランガイド」に並ぶレストランガイドと評される「ゴ・エ・ミヨ」に掲載された豊橋市のフランス料理店「aru(アル)」の鈴木琢さん、新城市の農家「SFIDA(スフィーダ)」ら30、40代の若手計8人。

 

 結成のきっかけは、スフィーダのビニールハウスが台風により倒壊したことにある。改修費用を捻出しようと、付き合いのあった料理人たちがチャリティーイベントを計画。せっかくなら継続的な活動にしていこうと2019年、初めてフルコースイベントを企画。11月7、8両日に予定する3回目は、アルコールの提供が難しくなる昨今の情勢に合わせ、ノンアルコールのペアリングにも挑戦する。

 

 「コミュニケーション」は、活動の軸の一つでもある。フルコースや朝食イベントの他、レストランへ行くという敷居の高さを払拭するため、子ども向け料理教室やレストランマナー講座、自分で育てた作物を収穫し、それをシェフが調理して食べる体験型イベントも計画する。「レストランの良さを広め、食の体験を通じて、相互的にコミュニケーションをとり、互いに歩み寄っていけるのが理想。例えば、レストランマナーを覚えるというと堅苦しくなるが、同じ空間でご飯を食べている人全員が楽しむためのマナーというものを伝えたい」。

 

 一方で、農家側からの視点は少々異なる。イベントで振る舞う野菜のほとんどを作るスフィーダは、年間200品種を新城市の中山間地域で無農薬栽培する。エネルギーが詰まった、ふくよかさを感じる野菜に4人の信頼は厚い。

 

 拠点である中山間地域では、大規模に一つの作物を育て、それを市場に卸すことで成り立てることは難しい。加えて、農家の高齢化、担い手不足は解決の糸口が見えず、スフィーダの白井陽さんは「いち農家として売り上げが上がっても、地域の農業に貢献できているという実感はない。ヤァサスで料理を提供して終わりではなく、直接飲食店と付き合うことで、例えば地域で流通に回らない野菜の加工品を作ったり、他の農家と手を取り合ったりしながら、付加価値を付けることで、この地域の農業を盛り上げていきたいです」と話す。

 
 日本有数の農業地帯、東三河では「食」をキーワードに地域の魅力を高めようとする動きが出ている。農業ベンチャーやフードビジネスをやりたい人の聖地になることを目指す「東三河フードバレー構想」が掲げられ、この秋には豊橋駅東口に食の発信拠点としての機能を備える商業施設が開業する。バス車内でコース料理を味わいながら、各市の名所を回るレストランバスの運行もあった。

 

 産地の名店を介してみずみずしい旬が消費者に届けられれば、地域に対するファンが増やせるのではないか。
 実際に「食」が旅の目的の一つになる人も多く、JTBの調査によると「食」を目的として旅先を選んだことがある人は65%にのぼる。陽さんも「すごいレストランが一軒でもあれば、そこを目的にこの地域に人が来る。高め合いながらメンバーの店がそうなってほしいし、その姿を見たほかのレストランも育つと思います」。

 

 農家と料理人が直接接点を持つことについて、ジータの白井さんは「農家とコミュニケーションを取ることで、使いたい野菜のサイズを気兼ねなくリクエストできる。サイズの違いで盛り付けの完成度が変わるし、農家の大変さ、思いを知ることもできます」と話すと、陽さんも「食材の使い方を直接、見られるし、調理方法を知ることで消費者へ提案もできます。レストランへの出荷の際の心配りも学んでいます。現場の頑張りを知ることで僕らも頑張らないとと思います」と笑う。

 ヤァサスが目指すのは、飾らず気取らず、料理人と生産者、ゲストが「ただただ料理に没頭する」特別な体験の提供。「外から東三河に来たお客さんにフルコースイベントなどを体感してもらうことで地域の魅力を知ってもらい、、理解に結びつけられたらいいなと思います」。

 

 11月7、8両日に計画する第3回のフルコースイベントは、豊川市のGITAで行う。時間は7日が正午と午後6時から、8日は午後6時から。ワインかノンアルコールのペアリングが付いて価格は2万4000円(消費税、サービス料込み)。予約は10月10日から12日正午まで、ヤァサスホームページの予約フォームで受け付けている。抽選制で、当選者にはメールで知らせる。

 

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