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豊川市のキクラゲ農家けっぴー

豊川市の農家・キクラゲの妖精けっぴーが企む愛知県木耳特産品化計画

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 インスタグラムで見かけたピンク色のスウェットを着てガニ股でポーズを決めるアフロヘアーの女性。キクラゲの妖精「けっぴー」と名乗る彼女が手にするのは、食卓で目にすることの少ない「キクラゲ」。奇妙なコントラストを生む組み合わせに、瞬時に目が奪われるが、一体彼女は何者なのか? 愛知県豊川市のキクラゲハウスに向かった。

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 「『あぁキクラゲが食べたい!』と日常で思うことはあまりないと思います。目立たないと知ってもらえない存在なので、だったら自分が目立とうと思いました」と話す喚田恵子さんが「けっぴー」、その人だ。

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 愛知県豊川市でキクラゲの栽培を始めて1年ほど。これまで就労継続支援B型の施設として、親戚が生産してたキクラゲの選別、加工を請け負っていた。キクラゲにほれ込み魅力を世に広めため、そして働く障害者の工賃をあげるべく生産に乗り出した。

 キクラゲはビタミンDや鉄分、カルシウム、食物繊維など、実は栄養価の高い食物。さっと茹でたキクラゲはぷりんぷりんの歯応えが楽しい刺身として、乾燥キクラゲならコリコリとした独特の食感が小気味いい。料理に入っていると嬉しいけれど、家庭での存在感は薄く、最近ようやくスーパーで国産キクラゲを目にするようになった程度。「栄養価は高いけれど、食べてすぐに効果があらわれるものでもない。調理方法を妖精として伝えることで興味を持ってもらい、家庭で食べてもらう第一歩につなげたいと思っています」。

 発信の仕方で誰でも注目を集める可能性がある昨今、SNSを使って情報発信する農家は少なくない。日本有数の農業地帯、東三河でも、作物の成長や栽培の様子を伝えることで消費者に親近感を与え、ただいいものを作るだけでは届かない思いを伝える重要なツールになっている。

 けっぴーのインスタはキクラゲの地味さを払拭するように鮮やかな写真が並ぶ。情報量も多く、内容も濃い。3年ほど前から稼働するインスタは、けっぴーになったこの半年で1・5倍にフォロワーが増加した。「この姿になってから皆さんフレンドリーに接してくれますし、とても反応がよくなりました。ただ、楽しいと思ったことをやっているだけですが、インスタの投稿はできるだけ正直に本音で文章を書くようにしています」。

 
 
 
 
 
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 中華のイメージが強いが、和食やイタリアン、フレンチなどさまざまな料理と実は相性がいいキクラゲ。唐揚げ、パスタ、カレーにハンバーガーと、キクラゲを使ったメニューのある店舗の紹介、フォロワーのレシピを共有することで、地元では徐々にキクラゲを食べる人も増えているという。
 

 けっぴーの誕生には、今年2月発売の乾燥キクラゲを加工した佃煮「きくらげラー油」の存在なくして語れない。発売から半年で7000個を売り上げたヒット商品は、鮮やかなピンク色のパッケージが目を引く。製造するのは「食べるラー油」、「食べるオリーブオイル」など「食べるシリーズ」で知られる福島県の老舗漬物佃煮製造会社「小田原屋」。味はお墨付きで、うどんやパスタ、ラーメンのトッピングとしても使えると好評だ。

 7月には「きくらげしそ高菜」も新たに仲間入り。初披露となる豊橋市のスーパー「一期家一笑(いちごやいちえ)」で行ったイベントでは、購入者と一緒に写真を撮ったり、「農カード」にサインを書いたり。知る人ぞ知る存在のけっぴーとの2ショット写真は「インスタグラムに載せます」と購入者。誰もが笑顔でブースを後にする。
 
 他にも、ラインスタンプになったり、ロゴマーク入りの靴下やTシャツを作って売ったり、東京でサイン会を行った様子をインスタグラムに上げたりして、「スター」を演じる。気軽に外出ができない今、スーパーに来ることが息抜きの人もいるからこそ、「コロナ禍でも皆さんスーパーには行く。そこで、何か面白いことをやっていたら気分も明るくなるかなと思って」。
 
 キクラゲ作りでは農薬を使用していないためにこの夏、ハウス内に虫が発生し、全ての菌床を処分、再スタートを切ることになった。風と温度に影響を受けやすいキクラゲ栽培は気が抜けない。現在1棟のハウスで年間10トンを収穫する。菌床にもこだわり、おがくずやふすま粉、大豆の胚芽など国産の原料を自ら仕入れ、オリジナルの配合で一つ一つ丁寧に仕込む。
 常に前へ前へ向かう喚田さんのパワーの源には、子どもたちとの何気ない会話で出た約束がある。「キクラゲを愛知の特産品にする。そのために5年以内にハウスを10棟に増やして日本一になりたいと思います」。 

 

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