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豊川市のレコード店

愛知県豊橋市の老舗銭湯に響くレコードの音、番台に座るのはLiE RECORDS店主

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 愛知県豊橋市神明町の銭湯「人蔘湯」の番台。毎週金曜、ジャズや歌謡曲などのレコードを次々にかけていく平松章也さん(33)の姿があった。選んだレコード盤の上にそっと針を落とす。少しの間があって、立ち上る音が脱衣所へと吸い込まれていく。

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 雨が降り続いた週の終わりにかけていたのは、サティ・ピアノ作品集「3つのジムノペディ」。季節や気温、天気、自分の気分でチョイスしてきたレコード70枚の中から、客入りなどを見て曲を選んでいく。

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 銭湯とレコード、この二つは今、「古臭い」という存在ではなくなりつつある。往年のファンだけでなく、若者たちにも支持を集めて人気が再燃。緊張感と縁のない銭湯にフリーダムな音楽が最高の相棒のように寄り添う。

 平松さんは昨年8月、豊川市駅前通4にレコード専門店「LiE RECORDS(ライレコーズ)」をオープンした。定休日の毎週金曜日に人蔘湯の番台に座り、受付をしながらDJもする。

 豊川市で生まれ育った。「周りに合わせて聞く程度だった」という音楽にハマったのは、20代で出会ったロックバンド「サニーデイ・サービス」の影響が大きい。「自分にとっては非の打ち所もない曲で、音楽のすごさを思い知りました。音楽には人を変える力があったり、まだ見ぬ世界を見せてくれたりするものだと理解しました」。

 このバンドの影響でレコードの収集を始めた。「最初は『見た目はかわいいけど、結局音はよくわかんないぞ』という感じでした。音の柔らかい感じは、針やスピーカー、間に通すミキサーで変わる。音がいいとかは人の主観によりますが、僕はいいと思います。なんか丸っこくてかわいくて。ジャケットもそれぞれ凝っていて、絵を買ったら何万もするものが100円から楽しめます」。

 その人気の裏には、ジャケットから取り出したレコードに針を落とすという一連の動作に魅力を感じる人も多いと見られる。「レコードを聞くのはぶっちゃけ、面倒くさいですよね。でも、音楽データはいつどこで誰が聞いても同じ音しか鳴らないけれど、針が溝に触れることで音が出るレコードは買った時点の音と、聞き続けた音が多少なりとも変わる。少なくとも今、この音しか鳴らないというのも魅力。針を落として、ちょっと間があって、音がたちのぼるまでのあのドキドキはデータとは違うと思います」。

 1枚のレコードが醸すストーリーも引かれる理由の一つ。例えば、広島県のレコードショップでは、原爆でまちが焼き払われたため、戦前のレコードは数が少ないという。そのまちの歴史と文化を知る場所としての側面も感じる。「旅先で買ったレコードはやっぱり覚えている。そこには思い入れがあって、自分にとっては音もよく聞こえるんです」。

 これまで、アパレルや高齢者福祉施設などで働いてきたが、「一番楽しいことをやりたい」と一念発起したのはコロナ下の昨年。当初はコレクションと買いつけたものを通販で売る予定だったが、周囲の助言から実店舗を開店した。

 物件を決める最中に、思いもよらぬことがあった。「嘘みたいな、作り話のようだけど、友人の知り合いがちょうど事務所の1階でレコード屋をやる人を探していて。初対面のその日に先方は改装準備を始めようとした。こっちはまだやるともいってないのに」と笑う。

 店内には、軍歌からトランスまで年代を問わず楽しめるオールジャンルのレコード3万枚が並ぶ。大きな窓の明るい店は、幼い子どもを連れた家族や祖父と孫で訪れる客もいる。「なるべく東京にも置いていないようなものをそろえた方が面白いかなと思っています。近所の人がベビーカーを押しながら来るような、誰でも入ってきやすい店にしたい」。

 スマートフォンでダウンロードした音楽データを聞くことが当たり前の今、レコードの売り上げは世界的に好調だ。2020年に米国ではⅭDの売り上げを抜いた。日本レコード協会によると、2020年の国内のアナログレコードの生産枚数は約110万枚。10年前に比べ10倍となっている。右肩下がりのⅭDと生産規模は違うものの、音楽業界で存在感は増す。

 だが、初心者にレコードのイロハを教えるような専門店は数を減らし、不定期で開く店を除けば、東三河にレコード店はここだけだ。

 平松さんにオープンを決意させた背景に、リサイクルショップで出会ったカップルがある。レコードを見に来た2人が、何を買ったらいいのか分からないと言った風で手ぶらで帰っていく。「入りやすい空間、初心者が気軽に店主と会って話せる店が近くにあれば、来てくれるかもしれないと思った」。

 店には「最初の1枚」を求めて足を運ぶ若者も少なくない。「『レコードを聞いてみたいけれど、何が聞きたいか分からな』というのは、この現代ならではの回答だなと思います。『初めて買うレコードを選んでほしい』と言われると責任重大で、そうなるとやっぱりビートルズを選んでしまいますね」と話す。レコードプレーヤーの販売も好調で、小学生が誕生日プレゼントに購入していったこともあった。

 店の核となる買取もオールジャンルで取り扱う。「なんでも精通するのは難しいので、勉強しながらやっています。まだまだ底の浅さを思い知らされる日々です」。

 「初心者の人にも楽しんでもらって、今はブームかもしれないけれど、できれば音楽を趣味としてくれればいいかなと思っています」。


LiE RECORDS(ライレコーズ)
インスタグラム:lie_records
住所:豊川市駅前通4-18 豊橋駅前の水上ビルへ移転、2023年1月下旬オープン予定
営業時間:正午~午後8時
定休日:木・金曜日
電話:050・1308・6934

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