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エムキャンパスの屋上農園が描く東三河の未来|今里武ホテルアークリッシュ豊橋総料理長

農業と食

 

農業も美しさや芸術的なところがある。
実っているところも美しいし、枯れていくところ、それも美。

 


屋上農園が描く東三河の未来 今里武ホテルアークリッシュ豊橋総料理長

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 豊橋駅東口に近い豊橋市駅前大通2丁目で進んでいる再開発事業で整備される高層ビル「emCAMPUS(エムキャンパス)」に今年秋、屋上農園が誕生します。東三河の農家と駅前にある「ホテルアークリッシュ豊橋」の今里武総料理長(46)が参画します。農園の母体組織「農民藝術創造倶楽部」を立ち上げ、準備を進めています。料理人代表の今里総料理長に屋上農園について聞きました。

 

 ー 低層棟(5階建て)の屋上に農園が誕生します。屋上農園は、どのように展開していきますか。

 今里 東三河の生産者が参加します。奥三河の間伐材で作ったプランターを生産者に配り、栽培してもらったプランタ-150~200個を屋上に並べます。
 生産者方ではプランター栽培を続けてもらい、循環させていきます。屋上でいちから始めると殺風景な状況も出てくるので、それを防ぐため、ある程度成長したものをローテーションし、プランターを入れ替えて屋上で見せるかたちになります。

 ー 中心街のビル屋上でやる意義は?

 今里 生産者も料理人も同じ土俵で取り組んでいくことが、食を発展させていくのに大事だと思うんです。屋上農園は、そういう関係性で一緒に仕事をしていくイメージ。やっていることがメジャーになり、みんなに共感を得れるようになったら、生産者の方も新しい人や弟子入りしたい人たちが来てくれるようになります。そうしたら、豊橋、東三河の活性化につながるし、農業も面白い、意味あることをやっていると知らせる良いコンテンツになると思います。

屋上農園のイメージ画像(提供)

 

 ー 街のビルで課題も多いのではないでしょうか。

 今里 初めてのことなので、どういう日当たりなのか、風があたるのか、鳥が来るのかなど、手探りでやらないといけないんですよね。だからこそ、プロフェッショナルな人たちで始め、生産者代表の河合さん(河合浩樹さん)に信頼の持てる人を集めてもらいました。
 スタートして1年、2年くらいは実験的になります。まずは、ちゃんとできているところを見せつつ、共感を持った新しい人たちが参加できるようにすれば、どんどん浸透していくと思います。

 ー 一般的な屋上農園との違いは?

 今里 おしゃれ度や見た目を重視するところもありますが、こちらは食も野菜も屋上の畑で本格的にと考えています。2年、3年目になって余裕が持てたら、マンションがあるので、レンタル農園をやっていけたらいいなと思っています。
 新しい可能性がある場所で、1階はフードコートとレストランを作り、マルシェ、市場を作っていく。2階、3階は市立図書館なので、そことも連動させながら進めていこうと思っています。

 - 図書館とは具体的にどのように連携しますか?

 今里 エムキャンパスは図書館もあるので、家族連れでも入りやすく、ちゃんとしたものをちゃんとした価値で提供していくように運営できたらと思います。孤立しないようエムキャンパス全体で連動するように進めていきます。
 そのためには、屋上農園やエムキャンパスがやっていることが、地域のため、住民、生産者のためということに共感を持ってもらえるような取り組みをしていきます。
 新しいものを作れば3カ月は来てくれます。しかし、豊橋、東三河の食の文化の価値観を高めていくのは5年、10年、20年の業務になってくるので、そういう点も見据えて一つ一つ責任を持って進めていきたいと思います。

 ー 生産物はどのように活用しますか。

 今里 フードコートにあるマルシェで売ったり、レストランで使ったりすれば、エムキャンパスの中で「食の街」として循環できるんです。屋上の生産物だけでは販売は追いつかないので、生産者の自宅で作っている作物もマルシェに置いてもらうことになります。
 それから僕のイメージでは、近くの幼稚園の子への食育や収穫体験も可能。他に1000円払って野菜5品をもぎって、下のレストランで調理しますということもできたらと思います。いろいろな広がりや計画は考えていますが、テストする場所がないので、ある程度は手探りの状態で進んでいきます。

 ー 農民藝術創造倶楽部のメンバーは?

 今里 生産者と私ですが、今後、共感してくれた人たちの集まりになっていけばと思います。生産者、料理人だけでなく、食に携わっている人もいいし、集まりがどんどん広がり、豊橋、東三河の「食のまち」「食文化」というのが定着していけばいいと思います。倶楽部は屋上農園に関わり、私は1階のフードコートと連動させる役目も果たします。倶楽部が野菜を卸す問屋さんみたいになってもいいかと思います。
 「食の聖地」のスタートになるのが、エムキャンパスです。

 ー 倶楽部名には藝術という言葉が入っています。

 今里 農業も美しさや芸術的なところがあるんですよね。実っているところも美しいし、枯れていくところ、それも美。そういうものも含めて、あそこに行けば見られる。ただ畑で作っているわけではなく、今度は「みせる農業」も新しいスタイルになると感じますね。


 ー 単なる屋上にある農園ではありませんね。さまざまな役割を持ちます。

 今里 生産者も初めての体験なので、本当にチャレンジするというか、新しいことをやるという感じ。僕にとっても良い機会で、新しい発見があると思います。生産者も料理人も、新しい取り組みに進んでいけたら、すごくやりがい、やっている意味があると思います。
 私は他県から来たんですが、東三河は食材が豊富。ある程度のものは何でもそろう。しかし、それが地元の人は当たり前だと思っています。ちゃんと良いものを作っている、良い食材があることを、この2丁目から全国、世界へ発信できたら、新しい食の文化が東三河、豊橋に生まれてくるかなと思います。

 ー 長崎県出身の今里さんの目に、東三河の農業、食材はどのよう映っていますか。

 今里 やはりすごいというか、食材が通年でそろいます。野菜やハーブの種類が豊富で、エディブルフラワーもあります。海も近いでしょう。それから、ブランド牛・豚、うずらにカモ、イノシシ。ほぼ全部の食材が地元のものでそろい、そういう地域はあまりないですね。
 あと、生産者が近い。そこも良いところだと思います。コミュニケーションがとりやすいし、生産者の顔が見えて言葉も聞けます。そうすると、こちらは安心安全な料理に展開できるし、自信を持って使えます。すごく恵まれていると思います。ほ場に行くのも近く、車ですぐに行けます。


 ー 全国でも指折りの農業地帯ですが、課題をどう考えていますか。

 今里 地元の消費者の皆さんは、ずっといいものが身近にあるので価値観を感じにくい。良いものは、それなりの対価で売買し合うというのが、今後の課題だと思います。よく勘違いされるのは、地産地消だから安い、というのは一番危険な認識。地産地消で手間暇かけて良いものを作っている人たちは、それなりの費用をかけていますが、それでおいしいものを出せばその人のブランドなので、それが価値に変わります。そういうところをもう少し認識していけば、もうちょっと食文化が豊かになったり、まち全体が食のありがたみをわかったりと、さらにレベルが上がると思います。
 6次産業を生産者がやりますが、そこもバランスがあって、高すぎたら消費者は買えない。でも本当にそれが良いものだったら、高くても買うんです。そういうところも今後の課題です。

 ー 価値観が大切ですね。

 今里 例えば、エムキャンパスでゆくゆくは加工場をつくりたい。委託したら、デザイン料やロット数で掛け合いがあるから原価が高くなるので、こういう加工場事業で緩和し、とりやすい金額で商品が売っていけば、生産者、消費者側とも全部うまく回っていく。そういう環境が必要だと思います。
 安いものは安くても良いし、良いものは良いでいい。そこの価値観をちゃんと区別かできる状況をつくってあげた方がいいですね。こだわっていると主張しても、それが伴っていないとちょっと変なことになります。最終的には売れなくては商売は成り立ちません。それを上手に導き出せるような社会、食の文化をつくり上げられたらいいなと思います。

 ー ありがとうございました。 

 

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