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糀屋三左衛門KOJI THE KITCHEN

麹で日本独自のコーヒー誕生!? クリエイターが開発する未知なる麹メニューの発表会開催

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 さまざまなクリエイターと協力して麹のさらなる魅力を引き出そうと、室町時代創業の種麹メーカー「糀屋三左衛門」(愛知県豊橋市牟呂町、村井裕一郎社長)は10月から、プロジェクト「KOJI THE KITCHEN」をスタートした。キックオフイベントとして東海地方で活躍するフードクリエイターが同社の研究者と共に、コーヒーとキヌアなどの麹化に挑戦。村井社長は、「麹が主役になれる可能性を感じた」と、麹という伝統産業のさらなる広がりに期待した。

 「KOJI THE KITCHEN」は、種麹を主軸にした食文化創造の探究プロジェクト。日本最古のバイオメーカーである糀屋三左衛門の持つ種麹の知見やテクニックと、食及びその周辺のさまざまな業界のクリエイティブを掛け合わせることで、麹という伝統産業に「美しさ」と「楽しさ」を組み込み、次世代へ継承する文化として、世界へ発信していくことを目的にする。

 近年、注目される発酵。世界一の評価を受けるデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma(ノーマ)」が、発酵ラボを開設してあらゆる料理に発酵食品を使っていたり、発酵料理の本も多数出版されたりするなど、特に料理業界で発酵のムーブメントが発生している。プロジェクトでは、麹体験を三角形で捉え、美食やアートという文脈で高付加価値をつけ、高さを出していく一方で、初めて麹を作る人のハードルを低くして裾野を広げていく。

 11月3日、約1ヶ月に渡り試作を重ねてきたフードクリエイター2人によるメニューの発表会が名古屋市中心部の久屋大通公園にあるものづくりカフェ「Fab Cafe Nagoya」で開かれた。豊橋市出身の嗜好品プランナー・青山祥氏はコーヒーの麹化を、豊川市出身の建築士・鈴木裕太氏が麹を使ったカフェメニューを考案。発酵や食、アートに関わるゲストらが試食し、開発過程で気づいた麹の魅力や発見を共有しながら、新しい可能性を模索した。

 青山氏は、ドリップパックの定期便サービスの事業運用や、新しい嗜好品の楽しみ方を提供するイベントの運営などを行う。今回は、3種類のコーヒー豆を米麹、豆麹、黒麹の種麹を使って麹化し、東南アジアの希少コーヒー「コピルアック」のように、日本で生産される豆に麹を加えることで日本独特のフレーバーを作ることを目標に掲げた。


 生のコーヒー豆を水に浸し、蒸して種麹を撒き麹化、その豆を焙煎した。試作を重ねた結果、「黒麹化させた豆には、レモンや黒糖のような甘いフレーバーが付与された」と報告。「コーヒーの麹化自体はさほど難しくなかった。焙煎方法を確立させることで、今まで評価されてこなかったローグレードのコーヒーなども美味しく飲んでもらえるかもしれない」と今後の展開を語った。

 会場では、特に味と香りの変化が大きかった黒麹用の種麹を使った「インドネシアマンデリン」と米麹用で麹化した「ブラジルサントス」の2種類をゲストらが試飲。「インドネシアマンデリン」について、「フルーティーさが後から追ってくるようなうまさのハーモニーが面白い」、「すごく上品になっている。サツマイモのような香りがする」などと高評価。村井社長は「明らかに甘みが出ている。ちゃんと味覚として成立しているので、コーヒーの味覚の設計に麹が角度を一つ与えられるなら面白いし、誇らしい」と想像以上の味に感動していた。
 また、「ブラジルサントス」は、おかきのような香りになったことで、ゲストから料理に使うアイデアも飛び出し、青山氏も「新しいコーヒーの使い方で原材料として使用することもできると思います。今まで捨てられていた虫食いや欠けている豆を麹化させることで、生まれ変わらせることができたら、食品ロスの部分でも面白いと思います」と分析した。

 一方、「Fab Cafe Nagoya」のキッチン部門でレシピ開発にも携わっている鈴木氏は、実際にカフェで提供することを念頭に、豚肉のソテーに合うソースを開発。「食材の原料から想像できない味になる可能性がある」として、黒麹を使い、酸味やフルーティーさのあるソースを目指した。


 黒色の胞子を生やし、クエン酸を生成する特徴がある黒麹を使って、サツマイモやキヌア、米などを麹化した結果、酸味をいかした黒キヌア麹のフレッシュパセリソースと黒米麹のフレンチ風クリームソースを完成。店で麹を管理して提供するために加熱処理したり、酸味を強く出すなどして工夫した。また、麹化する原料の選定やその処理に苦労したものの、「麹が可愛く思えてきて、楽しかった」と、生き物として世話をする魅力も語った。

 試食したゲストからは「粒感や食感が楽しい」との感想のほか、「発酵させてとろみが出たソースになると発酵の魅力がさらに出るのでは」「世の中的には、甘酒含めて麹は甘くなるというイメージがある。黒麹を使うことで麹の世界にもいい酸味があることが分かった」と黒麹と料理の相性の良さに期待する声も。
  
 その後、麹を作る上での発見などを共有しながら、今後の展開をゲストとクリエイターが語り合い、家庭で気軽に麹作りができるデバイスの必要性や、安全に麹を作るための衛生管理のポイントなどに意見が出た。

 

ゲストの感想
 廣瀬ちえ氏(料理家) 
 「発酵は生き物との共存共生だと思っていて、偶然の産物のところが多い中で、これをいかに必然化させるかは温度や時間管理などの人間の工夫。そこの追求が私たちが次に新しいものを産んでいくカギになると感じました」 

 

 濱田織人氏(ベーシスト、音楽プロデューサー、クリエイティブディレクター、茶道家)
 「バイオの力が、これから料理の世界やいろんなものを広げてくれると思う。麹は体に対しての健康文脈や今までの歴史があるし、日本らしさもはらんでいる食材なので、トピックがどんどん生まれ、今回のように繋がりができると、麹が僕らの生活をもっと囲んでくるのでは」

 

 関谷健氏(関谷醸造代表取締役) 
 「今日はソースとコーヒーでしたが、世の中には麹ではないカビで作られている発酵食品がものすごくある。それを麹に置き換えて、例えばブルーチーズや鰹節を麹で作ってみるとか、普段カビとして作られているものを一旦、麹に置き換えてみると意外とできるかも。そうすると麹のトータル消費量も増えていくと思う」

 

 発表会はライブ中継も行い、約50人がその様子をオンラインで視聴。村井社長は「麹が主役になれる可能性を感じました。新しい食の文化を切り開く、そんな1日になったと思います。中でも、一番印象に残っているのは、鈴木さんの『麹が可愛くなってきた』という言葉です。そこが原動力で、作ること自体が楽しいし、それだから可能性が広がっていく。体験していただけて嬉しく思っております」と感謝した。
 

10月にはオンラインでキックオフイベント開催

 また、発表会に先駆けて10月10日にオンラインで行われたキックオフイベントでは、発酵をはじめとする食文化、デザイン、アートなどに関わるゲストらがディスカッションした。村井社長と、関谷氏、濱田氏の他、山梨県を活動拠点に発酵デザイナーとして国内外の発酵文化を調査研究し、著書「発酵文化人類学」がロングセラーを続ける小倉ヒラク氏も登壇、麹・発酵を通じた文化醸成の実践とこれからの可能性について意見を交わした。

 

 

 小倉氏は、キュレーターを務めた展覧会「発酵ツーリズム展」が大盛況で、昨年には東京・下北沢に発酵にまつわる食材や日用品を扱う「発酵デパートメント」もオープンした。ゲストプレゼンテーションでは、発酵に関するさまざまな活動を紹介しながら、「発酵は、いろいろな領域と結びついていく」と説明。地域と深くつながる発酵の文化的な面をいかした旅の提案も行なっており、「発酵を起点に旅することで、異世界に行ったような体験ができ、その過程の中では地域性やコミュニティの大切さも実感できる」と話した。

 また、日本酒「蓬莱泉」で知られる老舗造り酒屋「関谷醸造」(愛知県北設楽郡設楽町)の7代目・関谷氏は、酒造りのほか、名古屋市内で東三河地域の食材を使った飲食店を経営したり、本社蔵の近くに新設された「道の駅したら」に、酒造りのプロセスだけでなく、地域全体の風土、歴史なども学べる「ほうらいせん酒らぼ」を開設したりするなど、地域と発酵と食の融合への取り組みを紹介した。

 フードカルチャーマガジンRiCE.pressで「一期一食」連載中の濱田氏からは、世界が注目するガストロミーや、スペインのレストラン「エルブジ」などが創作する科学と融合した芸術的な料理、最先端テクノロジーを駆使したアートの紹介などがあり、麹に高付加価値をつけるヒントを提示。「アートと発酵を掛けていくなら、圧倒的な一人称(複数)をどう作り上げていくかが大事になる。とりあえず誰でもいいから1000人に買ってもらうより、愛してくれる1000人を見つけなければいけない。共感をどうつくっていけるかが必要」と分析した。

 最後のクロストークでは、麹を広く親しんでもらうために小倉氏は、「一般の人は70点を目指せばいい。味噌や甘酒を作る時に使う黄麹は難しいので、扱いやすい黒麹から始めるのもいいと思います」とアドバイス。濱田氏からは、「地域差や作り手の属性で発酵度合いがどう変わるか、リアルタイムでデータ化したり、変化が分かったりしたら面白い」、関谷氏は「家庭ごと、作り手ごとに味が変わるのも楽しみの一つになると思う」などと麹作りの魅力を語った。
 
 イベントは、プロジェクトのvol.0として行われ、今後もさまざまな企画を行う。