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【まちを継ぐ】商店街理事長と銭湯店長が継業の話をする

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まちを継ぐ。

 


継業の話をする|黒野有一郎と大武千明

 老舗が店を閉めると、「残念だ」と人々は悲しむ。黒字経営にもかかわらずあとを継ぐ人がなく、高齢により店を畳まざるを得ない店は全国にあふれ、さらに新型コロナウイルスの世界的感染拡大で先行きが見えないことも追い討ちをかける。事業承継を経営者だけの問題でなく、街全体で解決していくべき課題として捉えたとき、「継業」という形は解決の糸口になり得るのか。豊橋駅前にある大豊商店街の理事長・黒野有一郎さんと、今年復活した銭湯「人蔘湯」の新店長・大武千明さんが、まちを先へ継いでいくための話をしてくれました。(このインタビューは人蔘湯のクラウドファンディングページに掲載されていたものを再編集しています)

 

黒野 有一郎
一級建築士事務所 建築クロノ主宰/建築家
愛知県豊橋市生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、野沢正光建築工房など東京の設計事務所勤務を経て、2004年帰郷を機に一級建築士事務所 建築クロノを設立。現在、水上ビルの大豊商店街理事長のほか、駅前エリアのまちづくり協議会「豊橋まちなか会議」副会長を務めるなど地域のまちづくりや商店街に積極的に関わる活動をしている。

大武 千明
人蔘湯店長/間取図クリエイター/一級建築士
愛知県豊橋市生まれ。豊橋技術科学大学大学院建設工学専攻修了後、県内の住宅メーカーに就職。2013年より京都府京都市に移り住み、銭湯の魅力にハマる。2箇所の銭湯で修行を積んだのち、21年に豊橋市へ戻り、人蔘湯新店長に就任。また、訪れた銭湯の古き良き魅力を記録に残すため、建物をイラスト化する間取図クリエイターとしても活躍中。著書に「ひつじの京都銭湯図鑑」がある。

 

 

ー 今回、親族や従業員ではなく、接点のない第三者が事業を受け継ぐ「継業」と言う形でゆとなみ社が人蔘湯を再開させました。黒野さんも以前から「継業」に関心があったと聞きました。

黒野 ある時、たまに行く喫茶店に「1カ月後に閉店します」という札が貼られていたんです。マスターが「誰か継いでくれる人がいたらいいんだけどね」と言っていたので、知り合いに聞いて回ったらやりたいという人が見つかった。一部でも飲食店として継がれ、生き延びることができた店がある一方で、まちなかではおいしいうどんの名店や、「甘党トキワ」さんとか、豊橋を代表する老舗がどんどん閉店してしまう。継ぎたい人との間に信用のある人が一人いてくれれば、別の形であれ店を残すことができるんじゃないか、とずっと思っていた。そしたらそれは湊(三次郎)くんたちがやっている「継業」だと知りました。京都だと100年の老舗が潰れるのはダメだと周りがきっと思うんだよね。「あそこを潰しちゃいけない」と継ごうと思う人がいて、なんとか一部を残しながらでも、伝統を守るネットワークがあるんだと言われて、それはやっぱり京都ならではだと思いました。とはいえ、豊橋にだってなくしてはならない店はあって、みんなが惜しいと思うわけで、息子じゃなくても継ぐ人はきっといる。それは本当にもったいないと思っていたんです。

左から湊さん、人蔘湯女将、大武新店長

 

ー ゆとなみ社は関西で5軒の銭湯を継業し、東京でもコンサルタントを行っています。続々と閉店していく銭湯の中で継業できると判断するポイントや難しさは?

大武 人蔘湯は、地元出身者の私がいなければやれていたかどうか、ちょっと判断は難しかったと思います。さすがに京都で働いているスタッフに豊橋に行けとは言えないので、そこは私がいたからスムーズだった。人蔘湯の場合、人蔘湯を取材したことのある編集者の松本康治さんが女将さんとゆとなみ社をつないでくれました。

黒野 その松本さんが湊くんを知っていて、湊くんには既に実績があり、そこに豊橋出身の大武さんがいて、そういう奇跡。どんどん店が大量に潰れていく中で、そういうつながりが、うまくいったところだけに何か幸福なことが起こるわけじゃない? それは奇跡といえば奇跡だけど。

大武 偶然でもあり、必然でもあるという感じですかね。継業できない理由はいろいろですが、一つはオーナーさんが他人には貸したくないというもの。京都では結構ありますが、もしかしたら信頼してもらうことで気持ちが変わるかもしれない。もう一つは、事業性の問題ですね。銭湯は、一定の燃料代と水代がかかってくるので、事業性がないとやれない。立地条件、周辺エリアの人口、定期的に来てくれる人がどれくらい見込めるのかを見ると厳しいところはあります。

黒野 そもそも、廃業を決めた人は継いでくれる人が登場するとはまずは思っていないよね?

大武 はい。外の人に継いでもらうという発想がない。その上、自分がやってきて苦しい仕事だから子どもにはやらせたくないと思っていたりする。「もうやめるんだ」と決めた人の決意を覆すのは相当大変ですね。何年も、下手したら何十年もやめる時を覚悟してやってきているから、そこはなかなか難しいところです。人蔘湯を紹介してくれた松本さんはあちこちの銭湯に出入りしていて、それぞれで深い付き合いをしているので、銭湯側も松本さんの話なら一回聞いてみようとなった。

黒野 まだ少し廃業が惜しいと思っていて、継いでくれる人が登場すればちょっと残しておいてもいい、という場合がたぶんある。その時は湊くんや松本さんのような付き合いや信用が担保になる。人と信用、そこが継業のきも。何によって信用を得るのか、ある人は実績だし、ある人は知り合いだったりする。

大武 結構深いつながりがないと話もなかなか聞いてもらえない。松本さんのような人がどれだけいるか、動いてくれるのかというところが鍵になると思います。

黒野 例えば、不動産屋は空き店舗の前にただ札を出すんじゃなくて、担当をつけて、地域に介入しながら信用を得て、「何かあったら言ってね」という信頼関係をつくるような、仕事の領域を変えていくことでその役割が担えると思う。

大武 京都では、地元の不動産屋でかなり踏み込んでやっているところがあります。まちづくりの部署があって、ネットワークをつくり、新しく起業したい人に物件をコーディネートしています。ただ物件を貸すのではなく、お金にならないかもしれないけれど、地域のために人のつながりをつくっている。他にも、京都信用金庫は定期的に地域でお店をやっている人や個人で活動している人を集めて交流会をしていて、情報交換や新しく改装する融資の相談にも乗ってくれます。その中には、不動産屋もメンバーにいて、物件探しをサポートしてくれることも。地域で起業した人を表彰する制度もあり、金融機関の枠を超えて、いろいろと協力してくれています。

黒野 それはすごい。豊橋でもそういうネットワークをつくってもいいかもしれないね。

ー 最後に、黒野さんが人蔘湯に期待することは?

黒野 僕は、人蔘湯がなぜ再生できたのか、一体何をどういう風にやるんだろうというところに興味があります。まちづくりの観点で言うと、すごく面白い場所が一つ増えたなと。この企画なら人蔘湯さんでやればいいじゃんという話もできるし、そこには実績と経験値の高い人たちがいるので、連携をとっていきたいと思う。ファンをつくるためのノウハウも知りたい。そこはすごく期待しています。

大武 私も、まちなかに人の動きがつくれたらいいなと思っています。商店街はずらり店が並ぶ線だけど、周辺に面白いスポットや店が点在することでこれからは面的に広がり、エリアのようになっていくんじゃないか、と言う話を聞いたことがあります。人蔘湯も、面にするための一つのポイントになりたいと思っています。

 

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